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6月29日、岩手大学附属図書館にお邪魔しました。お約束していた木村直弘先生のほか、岩手大学学芸学部音楽科卒、県内の中学校校長などを務められ、岩手の音楽に詳しい佐々木正太郎先生もおいでくださいました。「海道東征」の手書き譜は、佐々木先生が、岩手師範学校で一年後輩の菅公(かん・いさお)先生から受け取って、岩手大学に収められることになったそうです。
佐々木先生が、千葉昌男先生から聞いた話によれば、昭和18年岩手師範学校の「海道東征」は本科二、三年生だけが歌い、当時一年生だった千葉先生は「露営の夢」(北村季晴作曲 松田鐵雄編曲)の合唱に出場したそうです。ここに書いた『卒業50周年記念誌<黙示>』が完成した頃、岩手師範で「海道東征」を歌った故・佐藤晋先生から「海道東征」を再演したいという話も出ていたが、楽譜が入手できず実現できなかったそうです。
さて、いよいよ貴重資料室で保管されている岩手大学所蔵「海道東征」手書きスコアと対面しました。
「海道東征」手書きスコアが保管されている岩手大学図書館→
表紙は、かなり傷んでいました。一枚二つ折りの五線紙41枚を重ねた(綴じなし)外側に青い紙が表紙のようにかぶせられています。その紙にはタイトルの記入なし。両端を折り返しているのが、信時家資料では見ない形なので、おそらく信時家を出てから、委嘱団体、あるいは演奏団体などで付けられたもののように思えました。五線紙は、ネームが一切入っていない20段の用紙。これは、信時家に残る「海道東征」自筆スコアも同じです。
タイトルページで目に付くのは、朱色の角印「財団法人日本文化中央聯盟之印」です。もちろん、信時家の自筆スコアには、この印はありません。筆跡となると、私的な勘に頼るような面がありますが、この印はそうそうある「印」ではないので、このスコアの由来を知る一番の決め手と言って良いでしょう。
楽譜は主にペン(インクはブルーブラックか?)書きで、赤鉛筆で、章のタイトル、歌詞の訂正や、演奏上の注意などが書き込まれています。ところどころに記入されたソリストの名は鉛筆書き。
さて、タイトルですが、海道東征とペンで書かれ、その横に(遷)の文字が赤で書き添えられています。これは一体どういったわけでしょうか?
文字を書き起こしてみると、 こんな感じです → → →
一方、楽譜第1ページに書かれた第一章のタイトルは、最初「肇國」とあったものを赤線で訂正し、横に赤で「高千穂」とあります。出版時のタイトルは「高千穂」です。そのほかにも歌詞の訂正がかなり目につきました。しかも。信時家の自筆スコアもほぼ同様の直しがあります。白秋の詩を受け取って、一旦作曲が仕上がって、浄書(ミイによる筆写)されて、白秋に届けた後に、見直し、訂正が入ったのかもしれません。信時家に残る歌詞原稿、また白秋関係資料と比較検討すれば、訂正・修正の過程がわかるのでしょう。
・・・・・と言う具合に、あちこちで立ち止まりながら、楽譜を見ているとすぐに時間は過ぎていきます。
とても、全部は書ききれないので、詳細は割愛します。
それで、一番気になるのは、この楽譜を誰が書いたか、ということでしょう。それは・・・全体を通して、やはり信時潔の妻ミイでした。一般の作品はもちろん、1000曲以上の校歌・団体歌まで、ほとんどの作品がそうですから、不思議ではありません。ただし、演奏用の書き込みのほかに、おそらく作曲者のものと思われる書き込みも数箇所確認できました。
それが実感できて来た頃、信時家の「自筆」スコアで、私がなにか変だと感じていたのは これだったのだ、と突然ひらめきました。
(つづく)
久しぶりの記事追加となりました。
このところ追っていたBIGな話題を、少しづつ書いていこうと思います。
1年以上前のこと、「岩手大学の図書館に<海道東征>の自筆譜が飾ってあるが知っているか?」と聞かれたことがあります。その時は、雑事にまぎれてそのままになっていました。
が、1年後に再び、別の方から同様の問い合わせがあり、これは詳しく調べておいたほうが良いだろうと思い立ち、連絡をとりはじめました。
本家サイト「信時潔研究ガイド」のhttp://home.netyou.jp//ff/nobu/page039.html にも記事が載っている、盛岡の渡部精治先生より、岩手でも「海道東征」上演があったという情報、資料を頂いていました。昭和18年7月に、ピアノ伴奏で、第一章「高千穂」が歌われています。 (詳細は後日掲載) 盛岡と「海道東征」の接点とは・・・私が知っていたのはこれだけでした。
ピアノ伴奏であれば、すでに昭和15年8月に、共益商社書店から、ピアノヴォーカルスコアが出版されているので、「自筆」の管絃楽スコアが盛岡にある理由と結びつきそうにありません。
そこで、とにかく盛岡の「岩手大学」の図書館に、「海道東征」の”自筆譜”が展示してあるというのは本当か、何故岩手大学にそれが保管されているのか、問い合わせてみることにしました。質問を、同大学図書館あてに出したのは、今年の5月7日のことでした。
(つづく)
CD『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』 解説書p.102(Disc 5-14 此の一戦)に、『国民合唱 第一輯』の表紙写真を載せています。
この楽譜は、信時潔旧蔵資料には含まれていませんでしたが、図書館等で複数確認できました。
ところが、表紙がきれいな状態で保存されているものがなかなか見つからなかったため、空席通信というサイトで国民合唱のことを書いていらして、 『歌と戦争』などの著書もある櫻本富雄先生から拝借しました。本CD集の編集途中はとても余裕が無く伺えなかったのですが、完成後にご挨拶にうかがったところ,CD集の完成を大変喜んでくださいました。編集過程で、とくに戦時下の作品をどのように考えるか、どう扱うか、悩んでいた折に、櫻本先生の言葉に励まされたことは「解説執筆を終えて」にも書きました。
さて、その櫻本先生に完成のご挨拶に伺った日、帰りがけに、もう使わないので資料を生かせる方に使って欲しい、と、『国民合唱』『国民歌謡』の楽譜一式を頂戴しました。発行当時は紙の質が悪いため劣化は激しく、扱いには気を使います。
国民歌謡からラジオ歌謡までの先行研究はいくつかあり、とくに詳しく調査した『国民歌謡ラジオ歌謡大全集』については、以前「国民歌謡」の項で書きました。
楽譜『国民合唱』の内容一覧というのは、あまり世間に公開されていないようですので、ここに書き上げておきます。
楽譜『国民合唱』(日本放送出版協会) 内容一覧
歴史的かな遣いはそのまま生かしました。
漢字は人名以外(一部例外あり)は、新字体に置き換えました。
曲名、作詞作曲者等は、楽譜中の表記に従いました。
※印は、手元に無いため、日本近代音楽館所蔵資料で確認して補いました。
国民合唱 第一輯
(日本放送出版協会 昭和17.7)
海ゆかば 万葉集大伴氏言立 信時潔作曲
此の一戦 大政翼賛会標語 信時潔作曲
僕等の団結 勝承夫作詞 信時潔作曲
朝だ元気で 八十島稔作詞 飯田信夫作曲
世界の果までも 相馬御風作詞 弘田龍太郎作曲
敵塁陥落 堀内敬三作詞作曲
国民合唱 第二輯
(日本放送出版協会 昭和17.11)
産業乙女 恩田幸夫作詞 高木東六作曲
箱根八里 中学唱歌 片山頴太郎編曲
忠霊塔の歌 百田宗治作詞 片山頴太郎作曲
夏は来ぬ 佐佐木信綱作詞 小山作之助作曲 片山頴太郎編曲
今年の燕 安藤一郎作詞 弘田龍太郎作曲
山の牧場 北村秀雄作詞 池譲作曲
国民合唱 第三輯
(日本放送出版協会 昭和17.12)
若い力 恩田幸夫作詞 岡本敏明作曲
南へ進む日の御旗 堀内敬三作詞 小山作之助作曲 信時潔編曲
一日の汗をぬぐひて 恩田幸夫作詞 福井文彦作曲
仕事の前に 勝承夫作詞 平井保喜作曲
海は高鳴る 喜志邦三作詞 平岡照章作曲
我は海の子 文部省新訂尋常小学唱歌
国民合唱 第四輯 ※
(日本放送出版協会 昭和18.3)
つばさの力 佐藤惣之助作詞 古關裕而作曲
かどでの朝 勝承夫作詞 信時潔作曲
来れや来れ 外山正一作詞 伊澤修二作曲 信時潔編曲
胸を張って 大政翼賛会宣伝部作詞 弘田龍太郎作曲
雲に寄せる 安藤一郎作詞 弘田龍太郎作曲
子を頌ふ 城左門作詞 深井史郎作曲
国民合唱 第五輯
(日本放送出版協会 昭和18.5)
必勝の歌 深尾須磨子作詞 福井文彦作曲
アリューシャンの勇士 西條八十作詞 大中寅二作曲
木炭の歌 深尾須磨子作詞 弘田龍太郎作曲
帆綱は歌うよ 前田鐵之助作詞 久保田公平作曲
富士山の賦 八波則吉作詞 長谷川良夫作曲
試練の時 勝承夫作詞 岡本敏明作曲
国民合唱 第六輯
(日本放送出版協会 昭和18.8)
飛行機は今日も飛ぶなり 酒徳宗三作詞 西條八十補作 信時潔作曲
母に捧ぐ 福田傳吉作詞 池譲作曲
潜水艦の歌 堀内敬三作詞作曲
御民の歌 大木惇夫作詞 山田耕筰作曲
連峰の雲 尾崎喜八作詞 山田耕筰作曲
国民合唱 第七輯
(日本放送出版協会 昭和18.11)
みたみわれ 海犬養岡麿作歌 山本芳樹作曲
海軍航空の歌 海軍航空本部撰歌 海軍軍楽隊作曲
密林行 佐伯孝夫作詞 大中寅二作曲
こころゆたかに 北村秀雄作詞 大中寅二作曲
こひのぼり 與田準一作詞 片山頴太郎作曲
母の顔 林柳波作詞 片山頴太郎作曲
国民合唱 第八輯 ※
(日本放送出版協会 昭和19.4)
落下傘部隊進撃の歌 堀内敬三作詞 山田耕筰作曲
征くぞ空の決戦場 井上康文作詞 高木東六作曲
航空決戦の歌 勝承夫作詞 安倍盛作曲
海の歌 安藤一郎作詞 平井保喜作曲
輸送船の歌 佐伯孝夫作詞 伊藤昇作曲
御朱印船 北村秀雄作詞 清瀬保二作曲
国民合唱 第九輯 ※
(日本放送出版協会 昭和19.4)
大アジヤ獅子吼の歌 日本文学報国会、日本音楽文化協会献納
学徒進軍歌 西條八十作詞 橋本國彦作曲
学徒空の進軍 吉田健次郎作詞 大内福三郎作曲
やすくにの 大江一二三作詞 信時潔作曲
勝ちぬき太鼓 岡本一平作詞 中山晋平作曲
実り 野口雨情作詞 佐々木俊一作曲
国民合唱 第十輯 ※
(日本放送出版協会 昭和19.9)
撃滅の誓 大木惇夫作詞 山田耕筰作曲
大航空の歌 西條八十作詞 佐々木俊一作曲
十億の団結 勝承夫作詞 片山頴太郎作曲
戦ふ花 深尾須磨子作詞 橋本國彦作曲
海上日出 土岐善麿謹作詞 信時潔謹作曲
常在戦場の歌 土岐善麿作詞 久保田公平作曲
国民合唱 第十一輯
(日本放送出版協会 昭和19.10)
南海の神鷲 佐伯孝夫作詞 福井文彦作曲
銀翼に祈る 北村秀雄作詞 草川信作曲
空の父空の兄 與田準一作詞 名倉晰作曲
少年兵を送る歌 大日本青少年団制定
輸送船行進歌 運輸通信省海運総局撰定
突撃喇叭鳴り渡る(一億総決起の歌) 大政翼賛会撰定
以上
CD『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』 解説書(初刷) の正誤表(追加訂正一覧)ができました。
CD発売当初(2008年11月)から2009年2月頃に発売されたものをお持ちの場合は、下記アドレスに掲載している「正誤表(追加訂正一覧)」をご確認ください。
正誤表(追加訂正一覧)
CD『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』 Disc 1-17に収録されている「皇后陛下御誕辰奉祝歌」の解説では、1941年(昭和16)の『音楽教育研究』という雑誌に掲載された佐佐木信綱著「皇后陛下御誕辰奉祝歌に就いて」と、信時潔著「皇后陛下御誕辰奉祝歌の作曲に就いて」を紹介しました。
実はこれは、益子九郎旧蔵資料の中から見つかった雑誌でした。(益子九郎についてはhttp://home.netyou.jp//ff/nobu/page049.htmlに詳しく書きました)
『音楽教育研究』とその改題後の『音楽教育』は、昭和14年10月の創刊から昭和18年5月の終刊まで、全42冊刊行されていますが、益子旧蔵資料には22冊が含まれていました。
まず最初にこの「皇后陛下御誕辰奉祝歌」について、ほかには載っていないほど詳しい情報が載っていることで、この雑誌が気にかかり始めました。
それから、信時潔が編纂に関わった新訂尋常小学唱歌、新訂高等小学唱歌の指導についての連載があること。もちろん信時自身は指導のことまで、具体的に関わってはいなかったと思いますが、作者、編纂者の意図するところは・・・ということから書かれているように思えました。
さらに、各冊の執筆者をみていくと、片山頴太郎、益子九郎をはじめ、信時門下の人々をはじめとして、比較的親しく行き来した人々、すなわち下総皖一、渡(のち夏目)鏡子、柏木俊夫、長谷川良夫、澤崎定之、宮内(のち瀧崎)鎭代子といった人たちが目につきました。 決して、信時潔が『音楽教育研究』の主幹とかアドバイザーだとか、そういう立場にあったわけではないのですが、何か、「信時潔の人脈が動いている」という予感がありました。
しかも、この雑誌について言及した資料が、今までほとんどないことも気にかかりました。確かに存在した雑誌、しかも雑誌の統廃合の折は、ほかの音楽教育関係雑誌が廃刊となって、こちらが残ったという雑誌なのに、今までの音楽教育史にほとんど現れて来ていないようなのです。
以上のようなことから、『音楽教育研究』『音楽教育』の総目次を作ってみることを思い立ち、CD『信時潔作品集成』解説書の校正の合間に作業をすすめました。幸い全冊の所在が判明して、目次と各記事のページを確認することができました。
思わぬ収穫----今まで見つけることができなかった信時潔関係記事も見つけました。
ことに、第5巻第3号(昭和18年3月号 編集後記によれば信時潔の朝日賞受賞を機に組まれた特集らしい)「特輯 信時潔氏を語る」に、颯田琴次、太田恒子、下總皖一、夏目(渡)鏡子、片山頴太郎が寄せた記事が載っていたのは新発見で、興味深い内容でした。
この「総目次」は、近日発行予定の『文献探索2008』(金沢文圃閣)に掲載されます。
なお、掲載記事に索引をつけることができなかったため、PDFファイル内の検索ができるように、
ウェブサイトにPDF版(「まえがき・あとがき」「総目次」の二つのファイル)をアップしましたので、
ご利用ください。
ウェブサイト「信時潔研究ガイド」 の 雑記帳のページ no.19 に、「昭和戦前期『音楽教育研究』『音楽教育』総目次」を掲載しています。
CD『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』 の企画・構成・復刻を担当した郡修彦氏が、隔月刊『SPレコード誌』第10巻第1号(通算91号)=2009年2月20日発行=に、「『海ゆかば』信時潔の作品集成 昭和戦前期のSPを復刻CD化」を、寄稿しています。(p.22~35)
郡氏が企画を持ち込み、全面的に協力して完成されたこのCDの制作裏話と併せて、郡氏と信時作品の因縁も綴られています。
CD添付の解説書では、ドライに表示されたデータも、それが判明するまでの入念な調査に裏付けられたものであることがわかります。音源入手の苦労や、技術的なことのほか、解説書には書けなかった裏話も盛り込まれ、ちらし(表紙)と DISC 1~6 の曲名(&演奏者)一覧も掲載、CDを聴きながらこれを読めば一層楽しめることでしょう。
掲載誌の詳細と、連絡先は下記の通りです。
『SPレコード誌』第10巻第1号(通算91号)
2009年2月20日発行
編集・発行 アナログ・ルネッサンス・クラブ (電話・FAX 042-207-8872)
定価2,600円 送料400円